CNC(Computer Numerically Controlled)マシニングセンタの大多数では7/24テーパのツールホルダを採用している(図1)。剛性を向上させるためには、オスとメスのテーパに公差を設定し、接合部の前方(フランジ付近)で確実に接触するようにする。そうすると、テーパの後方には小さな隙間が生じ、ラジアル方向のふれと剛性低下が起きる。一方、工具の交換を容易にするためには、ツールホルダのフランジとスピンドル面の間に大きな隙間を確保するようにテーパの大径の寸法を決める。そうすると、軸方向の工具位置の精度が悪くなる。どうすればよいか。解決策の一つとして、オスのテーパ面を、剛性を管理し精密加工し球で覆う。この「弾性」球が仮想的なテーパ面を構成しフランジと端面の接触を実現する(図2)。なお、この方法は米国特許5,322,304となっている。
  (参考文献:実際の設計研究会編「TRIZ入門」日刊工業新聞社)


図 1.ツールホルダの固定剛性が低い


図 2.ボールを使って多点で支持する

【思考演算の説明】
 本問題を、最小問題として捉える。すなわち、既存のシステムに大きな変更を加えずにツールホルダとスピンドルの接触面での剛性と精度を改善する。ここで、システム対立としては、ツールホルダのテーパは工具の位置決めを行うが、フランジと端面の接触は実現できない、ことである。問題のモデル化は、既存のシステムのいずれかの要素が、ツールホルダの位置決め能力を損なわずに、フランジと端面の接触を実現する、ことである。ここで、対立領域とリソースの解析をおこなう。対立領域はオス(ツールホルダ)とメス(スピンドル)のテーパの接触面である。唯一のリソースはオスのテーパの表面である。したがって、本問題の理想解としては、オスのテーパの表面がツールホルダを位置決めし、かつフランジと端面の接触を実現することである。ここで、物理的矛盾を明確にする。ツールホルダを位置決めするためには、オスとメスのテーパがしっかりと接触していなければならない。フランジと端面を確実に接触させるためには、オスとメスのテーパは非接触でなければならない、点である。この物理的矛盾の除去として、反対の特性をシステムとサブシステムとに分離する。オスのテーパ表面の全体はメスのテーパ面と固体接触していないが、多数の点で接触するようにしたものである。