化学肥料を作りたい。今、注目している工程では、まず前の工程で作った2種類のAとBの液体に、キャブレターと同じ機構を使って気体を吹きつけてそれぞれの液体の微粒を作り、次に微粒Aと微粒Bとを結合させて微粒ABを作るように設計した。ところが試作してみると、図1に示すように、微粒ABだけでなく、微粒AAと微粒BBもできてしまった。欲しいのは微粒ABだけである。さてどうしたらよいか。図2の(a)に示すように、微粒Aにプラスの電荷を、微粒Bにマイナスの電荷を与えておく。クリーンルームの天井をよく見ると、尖った電極が並んでいる。ここから電荷のシャワーとして正の電荷と負の電荷が交互に減衰しながら降ってきて、加工物やケースのチャージを消していく。このような電荷シャワーを微粒に降らせてやればよい。電気と言うより電子の位置の違いから生じる、親水基と疎水基とをうまく使うのが、図(b)の界面活性剤である。たとえば、洗濯用の洗剤は、服の布から浮き出た油の微粒の回りに洗剤の疎水基がくっつき、洗剤の親水基がその微粒の表面に出る。そうすれば布に再付着することなく、すすぎで流れてしまう。シリコンウエハはコロイダルシリカと呼ばれる研磨粉でポリシングされるが、これは図(c)に示すように、シリカの微粒子が酸性かアルカリ性かの中で互いに反発しながら分散している。つまり、シリカの端末をHかOHにすればよい。このため凝集が防げるので、凝集粉がシリコン表面にスクラッチを付けることがない。アルミナや窒化ケイ素などの他の研磨粉は砕いて粉にしているが、図(b)のようにに粉につけた界面活性剤で反発させ、凝集を防ごうとしている。しかし、破砕したドライの時点ですでに凝集し半分できあがっているので、スクラッチを発生させてしまう。一方、コロイダルシリカは“摩周湖のマリモ”のように、化学的にウェットで作られるので製造中も凝集が防げる。もっとも、液体を中性にすると、コロイダルシリカはたちまち凝集し、乾燥するとコンクリートのように硬くなる。ポリシングの工程では磨くための布も被加工物のウエハも、常に水で濡れるようにプロセスが設計されている。樹脂には、擦るとマイナスにチャージする材質と、プラスにチャージする材質がある。だから、粉の表面に樹脂を黄粉(きなこ)のように、まぶしておけば容易に電荷は付与できる。コピー機のトナーは樹脂とカーボンとの団子であるが、電荷をコントロールして、帯電したドラムにうまく付着するように調合されている。さらに図(d)のように、電子を与えてイオン化させることも広く行われている。たとえば真空ポンプのイオンポンプでは、分子を除去するために、分子に電子を当てて、イオン化した後、電界でハンドリングする。粉塵を静電除去するカラクリもこれと同じである。電子流に粉塵を通して帯電させる。また静電塗装では、塗料の霧をイオン化させてから同じく帯電させた被塗装物に引きつけさせ、強固に付着させる。イオンプレーティングでも蒸発した原子をイオン化・加速して基板にぶつける。蛇足ながら、粉を磁気的に処理して扱えないだろうか。磁石は単磁極が存在しないから、本課題のように単磁極をふりかけて使うのは不可能である。しかし、脱磁した粉をキャリアに使うと、後で着磁してそのキャリアを磁石で捕集することができる。微小なDNAや抗体を反応後に捕集するキャリアは、実際に試みられている。また、粉は振動的に処理して扱うこともできる。たとえば、超音波洗浄では、塵埃が振動で表面から離れ、また振動で再凝集するのを防いでいる。また、振動で粉(質量が大きい粉だが)は流動化し、凝集を防ぎ、ハンドリングし易くなる。(参考文献:中尾政之、畑村洋太郎、服部和隆「設計のナレッジマネジメント」日刊工業新聞社)


図 1.微粒ABを作りたい


図 2.各種の電気的改良方法

【思考演算の説明】
 この方法のように粉体を電気的に改質して扱うことは、産業で広く使われる常套手段である。特に微小なものを扱う場合、静電気は有効な手法で、毛皮工場で乾燥させやすくするために毛を立たせるのに使えるとか、風で受粉させるために風が吹いているときに花びらを開かせるのにも使える。また、コピー機のトナーが同じく静電気を使った良い設計例である。原稿の黒白模様がドラム上の帯電電荷の模様に転写され、その電荷にカーボン粒のトナーが付着して、再び白黒の模様になる。