火星探査車を開発するとしよう。火星はご存知の通り、ごつごつと岩だらけの世界である。岩を乗り越えて進もうとすると、ある程度、直径の大きいタイヤが必要である。しかし、そうすると図1に示すように、重心が高くなって、“道なき道”を走りまわると、ひっくり返るかもしれない。さてどうしたらよいか。図2に示すように、タイヤの中に硬球か丸い石を入れておく。タイヤが回っても常にこれらがタイヤの下部にあり、重心は下に保たれる。ちなみに火星にも地球の約0.38倍と小さいながらも重力はある。もちろん、車体の下に重りをぶらさげても安定性が向上するが、低すぎると重りが地面と擦ってしまう。この点、タイヤの中に重りを入れれば、スペースを犠牲にすることなく、安定性が得られる。車軸から重りをぶら下げてもいいが、流動性のある液体か粉体を入れておく方がスマートである。(参考文献:中尾政之、畑村洋太郎、服部和隆「設計のナレッジマネジメント」日刊工業新聞社)


図 1.重心が重くなった火星探査車


図 2.重心を低くした火星探査車

【思考演算の説明】
 ロシアの代表的な民芸品である、「マトリョーシュカ」を見習う。これは人形の中に少しだけ小さな同じ形状の人形が入る。つまり、入れ子構造が本問題のヒントとなる。タイヤの中は“昼寝(何もしていないということ)”をしているから、使わねば損である。