制御を排除しても、ある機能を満足する物質を設計することができる。
 一般の物質は温度が上げると伸びるものであるが、たとえば図の(a)に示すように、熱膨張率が異なる異種材料を組めば縮むものを実現できる。また、多くの材質は力がかかると縮むのが一般的である。これも図(b)のようなリンクを使えば、見かけ上伸びるものができる。磁気ヘッドはディスクの上を摺動するが、この時、摩擦力が働くとヘッドの頭が下がり、頭がディスクに押し付けられて、さらに摩擦力が大きくなる。これは、ヘッドをサスペンションで保持すると、サスペンションが捻れたり曲がったりして、ヘッドの頭がつんのめるモードで変形するからである。これも図(c)のような“懸垂遊木”のような斜めリンクを用いると、逆に力が加わるとヘッドの頭が持ち上がるようなモードの変形が生じ、その結果、摩擦力が小さくなる。このほかに、圧縮には剛だが剪断には柔である物質や、ある方向には通電するがそれに垂直な方向には絶縁するシート、などもよく使われるものである。前者は図(d)のゴムと金属とが積層されてゴムが剪断で変形する耐震ゴムであり、後者は図(e)の凸部の電極部分だけ金属メッキ樹脂球がつぶされる異方性導電フィルムである。また、粉体を使うと液体や気体では起きない現象が見られ、たとえば図(f)のように、サイロの中に貯蔵されている粉体は、貯蔵高さにかかわらず、一定流量で下から排出される。砂時計はこの性質を使っている。この現象はサイロ内壁と粉体との摩擦が大きく、円筒部に入っている粉体の重みをサイロ内壁が受けるために生じる。(参考文献:中尾政之、畑村洋太郎、服部和隆「設計のナレッジマネジメント」日刊工業新聞社)


図 制御を排除しても機能を満足する構造

【思考演算の説明】
 制御しなくてもよい“機能物質”として、本例のように、温度が上がると縮む物質、力がかかると伸びる物質、摩擦が働くと頭を持ち上げるスライダ、などがあげられる。