図の(a)は、東京大学大学院工学系研究科の長尾・光石研究室で試作した熱変形を補償制御した三次元形状測定機である。2点間にスーパーインバー製の丸棒を渡し、構造体との熱膨張差を歪みで測定する熱変形センサを各所に取り付けた。次にそれで変形を検出し、変形全体をコンピュータで計算してデータを補正した。それがうまくいったので意気揚々とそしてその実験データをひっさげて、あるドイツの老舗のメーカZ社に出かけて討論した。すると、そこの技術部長に「制御しないことは制御することに勝る」と言われた。そこのメーカでは、機械全体を断熱材付きのカバーで覆い、構造体の温度分析を均一にして、曲げが生じないように膨張・収縮させていた。図(b)に示すように、曲げが生じなければ、熱膨張率がゼロのガラスから成るリニアスケールによって、絶対位置を測定することができる。スケールもローラではさんであって、コラムが熱膨張しても、スケールは伸びない。しかし、測定するために表面に断熱カバーが覆えない石のベッドだけは、厚み方向に2個の熱電対を付けて、表面と裏面との温度差で生じた反りを予想して補正していた。 (参考文献:中尾政之、畑村洋太郎、服部和隆「設計のナレッジマネジメント」日刊工業新聞社)


図 補償制御しなくてもよい3次元形状測定機

【思考演算の説明】
 本例に示すように、補償制御のためのセンサをベタベタ貼りつけてコンピュータで力任せに補正するよりは、カバーをつけた方がスマートである。「制御しないことは制御することに勝る」のである。