溶解炉の炉内搬送コンベアを設計した。軽量化のためにハウジングを、嵩(かさ)比重が0.5程度と軽いバーミキュライト質のキャスタブルを選定した。バーミキュライトとは雲母系の原鉱石を高熱で焼成・膨張させた人工用土である。つまり、この骨材の中に“糊(のり)”代わりにセメントをバインダとして混合したキャスタブル耐火材を選定した。ところが、ヒータ支持部分でバインダとして用いたセメント、すなわちカルシウムシリケート(CaO・SiO2)系の、建築・土木用として最もポピュラーな、ボルトランドセメントが液相化した。その結果、強度が著しく低下し、ハウジングが破壊され、最後は、コンベア自体が崩壊した。


図 炉床の煉瓦が崩壊した

 ヒーター支持部材にキャスタブルを使用すると、バインダがボルトランドセメントだけでなく、アルミナセメントのため、800℃付近から無水アルミン酸カルシウムが生成する。これが完全にアルミナとして焼結する温度までは、強度が低下し割れの原因となる。したがって、ヒータ支持部材にはキャスタブルを使用するのは好ましくなく、それよりはバインダを含まない焼成煉瓦を割れないように積んで、耐火性・断熱性をもたせた方がよい。また、それ以外の部分は高温強度・断熱特性・嵩比重のバランスのとれた材料を選定する。キャスタブルは嵩比重は小さいが、Fe2O3、CaOなどのバインダを多く含み液相を生成しやすく、高温絶縁性・高温強度・発熱体との反応、などの問題があるため、ヒータ支持部材として適切ではない。


図 炉床の煉瓦を崩壊させない

 一般にヒータ支持材や断熱炉材の選定は、耐火性、強度、断熱性、絶縁性、施工性、コスト等を考慮する。雰囲気温度が700℃程度までの比較的低温の加熱炉では、炉床にはキャスタブルを使用する。しかし、ヒータ支持部が局所的にそれより高温になる場合には、焼成煉瓦を使用した方がよい。高温強度と断熱特性・嵩比重とは相反するため、使用部位に応じて材料を決定することが大切である。

【設計のアドバイス】
 セラミクスはAl2O3、SiO2、SiC、Si3N4、ZrO2、TiC、WC、など、それだけで構成されると耐熱性も硬度も非常に高くなる。しかし、素形材を作ってから削ると硬いため、バインダーを混ぜて“豆餅(まめもち)”のようなグリーン(なまという意味)を用いて欲しい形状に近いものを作る。その後で熱処理して“餅”にあたるバインダを飛ばし、セラミクス同士を焼結させて“豆”だけの“雷おこし”のようなものを作る。本事例のようにバインダを除去せずに用いると、思わぬ失敗をする。