事象・経過 |
![]() (図:Mars Climate Orbiterが火星に向け飛行している様子。 同映像はコンピューター・グラフィックを使用して作成されたもの。http://mars.jpl.nasa.gov より) そして、NASAは更なる火星探索を目指して1998年から1999年にかけての「Mars Surveyor '98 Science」 と呼ばれるミッションで2機の火星探査機を打ち上げた。それがMars Climate OrbiterとMars Polar Landerである。 火星の表面には、今から約10億年程前に水が液体の状態で存在した証拠とされる水路の跡の他、その説を立証するさま ざまな地形が存在しており、バクテリア等の生命が存在していた可能性が高いと推測されている。そして、現在でも地 下に水が液体の状態で存在する可能性が高いとされ、火星の環境は生命が存在するにあたり、太陽系では地球の次に適 していると言われている。では、なぜ液体の状態で火星表面に存在していた水が、今は存在しないのか。火星の環境に どのような変化があったのか。そして、存在していたと推測されているバクテリア等の生命は現在でも生存するのか。 このようなことに答えを求めること、つまり、火星においての水分、地質、そして気候を調査することが、生命存在の 可能性を探るカギになると考えられている。そして、それらの調査結果は地球の気候(環境)変化の仕組みを理解するカ ギになると期待されている。NASAの「Mars Surveyor '98 Science」ミッションは、その課題である「Volatiles and Climate History」 (厳しい気候とその歴史)を調査することが目的とされる。そして、その気候変化の歴史を研究することが、 「Mars Surveyor Program」全体の課題でもある生命調査に役立つとされている。 NASAの「Mars Surveyor '98 Science」ミッションの第1号機であるMars Climate Orbiterが、 予定より1日遅れの1998年12月11日午後1時45分51秒[現地時間]、アメリカ合衆国、フロリダ州、Cape Canaveral Air Stationの発射施設 17Aからボーイング社製のDelta II expendable 打上げロケットによって火星に向けて打ち上げられた。 Mars Climate Orbiterは翌年に打上げが予定されているMars Polar Landerと共に「Mars Surveyor '98 Science」ミッションを遂行する。そして、1999年1月3日午後3時21分10秒[現地時間]。同発射施設 17Bから同打上げ ロケットによって、同ミッションの第2号機である Mars Polar Landerが曇り空の中、火星に向けて打ち上げられた。 最初に打ち上げられたMars Climate Orbiterは、 火星において始めての天候探査衛星として火星軌道上で1年間(火星の1年間は、地球での約2年間と同等) の任務を遂行する。また、同探査機はPressure Modulator Infrared Radiometer(PMIRR)とMars Color Imager(MARCI)と呼ばれる装置を使用して火星の写真を撮影する。そして、それらの映像は火星大気に存在するダスト、 水蒸気、二酸化炭素を始め、季節変化の特徴や地表温度などの詳しい調査の際に使用される。 一方、Mars Climate Orbiter に続いて打ち上げられた、Mars Polar Landerは火星の南極へ着陸して地下調査などを行う軟着陸機であり、火星南極から役1,000Km以内に軟着陸する予定であった。 Mars Polar Landerには2つのマイクロ・プローブ(小型探測装置)を搭載しており、それらのマイクロ・プローブは 同探査機が火星の大気圏に突入する前にMars Polar Landerより切り離され、 パラシュート等の保護なしで火星表面に向けて落下し衝突、地下約1メートルに埋まり、 自動的に地下の水分や二酸化炭素を測定し分析をする予定であった。 2機の火星探査機が打ち上げられてから約9ヶ月が経過した1999年9月7日、「Mars Surveyor '98 Science」ミッション初となる火星の映像がMars Climate Orbiterに搭載されていたMars Color Imagerよって撮影された。写真は同探査機が火星まで約45億Kmの位置で撮影されたもので、赤色をした火星が映し出されて いる。Mars Climate Orbiterはそれからも順調に飛行を続け、予定通り9月23日に火星に到着した。 しかし、同日午前1時55分[太平洋夏時間]、Mars Climate Orbiterは火星の周囲軌道に入るためにメイン・エンジンを噴射したところ、同探査機の高度(火星表面からの高度)が予定より大幅に下り、火星の向こう側に入った同探査機は再びその姿を現すことはなかった。 ![]() (図:火星に着陸後のMars Polar Lander(Lander本体)の映像。 同映像はコンピューター・グラフィックを使用して作成されたもの。(http://mars.jpl.nasa.gov より) Mars Climate Orbiterミッションの失敗が明らかになってから約2ヶ月が経過した1999年12月3日、世界中の人々に 注目を浴びながらMars Polar Landerは、その着陸予定時間であった正午[太平洋時間]を過ぎようとしていた。 そして、それまで順調に飛行を続け、火星に軟着陸したはずのMars Polar Lander から初の通信が当日午後12時39分に届く予定であった。しかし、同探査機からの通信はMars Climate Orbiterの時同様、いつまで経っても届くことはなかった。その後の調査でMars Polar Landerは、同ミッションにおいての一番の難関とされていた軟着陸の際に問題が発生し、着陸に失敗したと推測された。Mars Polar Landerの着陸失敗の原因は、きわめて単純なもので同探査機の軟着陸機(Lander)が火星表面に接地した際 に軟着陸用エンジン(下降エンジン)の噴射を切る装置に問題があったという。Mars Polar Landerは、火星の大気圏突入時に飛行速度毎秒約1.5Kmという高速で降下するため、パラシュートを使用して毎秒約0.08 kmまで減速し軟着陸に備える。パラシュートが開いてから約23秒後、耐熱シールド*3の内側に格納されていた3本の着陸 脚が所定位置に固定され、その後、Mars Polar Landerは地表から高度約1.8Km(火星表面からの高度) の位置でパラシュートが切り離される。そして、その直後に軟着陸用エンジンが点火される設計であった。 また、Mars Polar Landerの軟着陸用エンジンの噴射量は、着陸脚に装備されていた着陸用センサーと コンピュータによって調整され、着陸用センサーが接地の際の衝撃を感知することで軟着陸用エンジンが停止する という仕組みであった。 しかし、事故後の調査で、Mars Polar Landerが着陸脚を所定の位置に下ろす際に、 その伸縮部分においてわずかな振動が生じてしまうこと、そして、その振動により同コンピュータが火星 に着陸したと誤認してしまい、軟着陸用エンジンが着陸中に停止する可能性があったことが分かった。 つまり、同探査機は本来、軟着陸用エンジンを使用して毎秒約2.4m程の速度で火星に軟着陸する予定であったが、 この誤作動により、Mars Polar Landerは約40mの高さから地面へ自由落下して破壊されたと推測されている。 |
*1 NASA(National Aeronautics and Space Administration)−アメリカ航空宇宙局
*2 火星探査機「のぞみ」−「火星探査機「のぞみ」は、文部省宇宙科学研究所(ISAS)が打ち上げた初めての 惑星探査機(オービター)で、日本が惑星探査に本格的に取り組むさきがけとなるミッションである。「 のぞみ」は、打上げ後の12月20日の地球スイングバイにおける加速不足と翌21日の飛翔コースの修正に 伴う燃料の使い過ぎのため、火星軌道到着は1999年10月から2004年1月に延期された。探査機「のぞみ」 の科学目的は、火星の大気と太陽風の相互作用の測定と火星の磁場の観測である。また、衛星のフォボス とデイモスの撮影も行う。」(日本惑星協会より−http://www.planetary.or.jp/know_nozomi.htmlからの引用) *3 耐熱シールド−火星大気圏への突入の際に生じる摩擦熱からMars Polar Landerを保護する装置 |