失敗百選 〜DC10のユナイテッド航空機墜落〜

【動機】
本事例は、航空機に搭載されていたエンジンの製造過程で生じた欠陥が大惨事を招いたとされながらも、 それまで幾度かにわたり行われた定期検査で異常が発見できなかった総合管理システムが問われた事例である。 しかし、その反面でユナイテッド航空が1979年から行ってきた危機管理システムのCrew Resource Management *1(クルー・レソース・マネージメント、CRM)が実証された事例でもあり、Crew Resource Managementが普及してゆくきっかけを作った。

【日時】1989年7月19日

【場所】アメリカ合衆国、アイオワ州
Sioux City Gateway空港、滑走路22付近

【死者数】111名

【負傷者数】172名

【物的被害】 ユナイテッド航空会社、マクドネル・ダグラスDC-10-10(N1819U)型機1機

(上図:緑色がアイオワ州にあたる)

【事象】
アメリカ・コロラド州Denver発ペンシルヴァニア州Philadelphia行きの ユナイテッド航空232便は、経由地のイリノイ州Chicagoへ向かう途中に第2エンジンが破壊した。 その後、同機はアイオワ州Sioux City Gateway空港に緊急着陸を試みたが、着陸の際に滑走路からそれて墜落、 乗客乗務員合わせて111名が犠牲となった。
詳しい【経過】そして【原因】については  こちら  
【背景】
ユナイテッド航空232便に使用されていたDC-10-10型機は1973年にMcDonald Douglas社によって製造されたもので。 43,401時間の飛行時間、飛行回数16,997回を持っていた。また、同機にはGeneral Electric社製のCF6-6D型ターボファン・エンジンが主翼に左右に1基ずつ、垂直尾翼付近に1基の計3基搭載されており、 同エンジンはそれぞれ42,436時間と16,899回にわたる飛行記録を持っていた。

ユナイテッド航空232便の整備記録によると、破損した第2エンジンのファン・ディスクは1971年9月に 鍛造および鋳造によって製造さてもので、41,009時間と15,503回にわたる飛行記録を持っていたが、 それは運行に支障を来すにほどの多い飛行記録ではなかった。事故機の同エンジンは、完全な整備記録が残っていたが、 それからも問題は発見されていない。また、他のDC10-10型機に使用されていたCF6-6D型エンジンからも そのような異常が発見された記録はなかった。

(右図:5−General Electric社製CF6-6D型ターボファン・エンジンのファン・ブレード。 写真の女性はファン・ブレードの一部を手にしている。写真提供 http://www.kc-10.net;より)

【後日談】
当事故では事故機が緊急着陸する様子が報道され注目を浴びた。また、事故後、 フライト・シュミレーターを使用してユナイテッド航空232便が遭遇した状況を再現した実験結果によると、 3つの操縦系統の油圧システムが破損した状態での着陸は不可能とされ、機長をはじめとする運航乗務員たちの勇姿は、 事故後マスコミにより大きく取り上げられ、NTSBからも賞賛された。
【知識化】
本事例は、製造時の欠陥を定期検査で発見出来なかったことから大惨事を招いた事例である。 この事故では、定期検査による欠陥発見の難しさが浮き出しになった他に、それまで航空会社 等によって行われてきた機体の検査方法が問われる結果となった。そして、この事故をきっか けに機体の定期検査が徹底されるようなり、更にImproved Ultrasonic Technique(インプルーブド・ウルトラソニック・テクニック)と呼ばれる新しい検査方法が 導入される結果となった。
事故に遭遇したMcDonald Douglas DC-10-10型機は3つの油圧システムを搭載しており、仮に2つの油圧システムが破壊されも、 残り1つの油圧システムで安全に操縦が出来る「Fail Safe Design」と呼ばれる構造をしていた。しかし、この事故では、第2エンジン単体の破壊で全ての 油圧システムが破壊された。この背景には、航空機製造会社の「Fail Safe Design」に問題が あったと思われ、「Fail Safe Design」設計の難しさが浮かび上がる結果ともなった。 当事故は、上記した以外のことでも多くの航空専門家によって注目された。それは、ユナイテッド 航空232便の運航乗務員が受けていたCrew Resource Management*1が実を結んだ成功例として注目されたことであった。ユナイテッド航空が1979年から 先駆的に取り組んでいたCrew Resource Managementとは、同航空会社がNASA Aims Research Centerの協力を得て開発した、乗務員がコックピット内で得られる利用可能な全てのリソース、 つまり、人、機器、情報等 を、有効かつ効果的に活用し、チームメンバーの力を結集して、 チームの業務遂行能力を向上させるという危機管理法である。
また当事故は、ハイテク機能が支える現代の航空機においても、人間が安全性に関わる割合がいかに 大きいかを実証する事例でもあった。そして、Crew Resource Managementそのものの有効性を実証するものとしても航空業界全般にとどまらず、他の業界までCrew Resource Managementが普及してゆくきっかけを作った。
【情報源】
  • http://www.airdisaster.com
  • http://www.ntsb.gov/NTSB/brief.asp?ev_id=20001213X28786&key=1
  • http://www.panix.com/~jac/aviation/haynes.html
  • http://aviation-safety.net/pictures/displayphoto.php?id=19890719-1&vnr=1&kind=PC
  • http://www.cami.jccbi.gov/AAM-400A/FASMB/FAS/49.html
  • http://www.suite101.com/article.cfm/history_of_flight/50390
  • http://dnausers.d-n-a.net/dnetGOjg/190789.htm
  • http://www.jas.co.jp
  • http://urawa.cool.ne.jp/leitmotif/column/column06.html



用語解説

*1.クルー・レソースマネージメント
ユナイテッド航空がNASA Aims Reserch Centerの協力を得て開発した危機管理法.詳しくは知識化・対策を参照
*2.フライト・エンジニア
航空機関士
*3.エンジン・シャットダウンチェックリスト
エンジンを停止させる際に行う手順リスト.

*4.オートパイロット
自動操縦装置とも呼ばれ、コンピューターを使って飛行状態を計器で把握し、 航空機の姿勢変化に応じ操縦装置を動力で操作する装置。航法装置を結合することにより、 所定の方向に飛行を続けさせる働きを持っている.
*5.テールコーン
機体の最後尾部.
*6.トラフィックコントロール・センター
航空管制機関.
*7.日航ジャンボ機墜落事故
1985年8月12日、日本航空 123便が離陸後、機体後方で「パーン」という異常音が発生し、垂直尾翼が破壊した。同機は垂直尾翼の内部に取付けられていた油圧配管が破壊されたため、全ての油圧力を失い操縦不能になった事故.
*8.NTSB
National Transportation Safety Boardの略、運輸安全委員会.