アメリカ合衆国は第2次世界大戦中、リバティー船と呼ばれる約1万トンの規格輸送船を、全溶接によって約4700船建造した。ところが、就航間もない1942年から1946年にかけて、約1200隻(約1/4)が船体の破壊事故を起こし、さらにその内の約230隻は破壊によって沈没また使用不能となった。主な原因は低温脆性破壊である。冬季の低温時に切り欠き(冶金学的欠陥)から脆性破壊が起こった。
本事故を契機に切り欠き脆性の研究が進み、シャルピー試験を代表とするエネルギ吸収試験が確立した。
引用文献〔1〕船舶技術協会:船の科学(昭23)(1948)
〔2〕新日本製鉄:鋼材規格集(1987)
〔3〕日本規格協会:日本工業規格(1991)
材料の衝撃エネルギー吸収量を測る一般的な方法が図1のシャルピー衝撃試験である。
図2がシャルピー衝撃試験のための試験片である。
ある材料の温度を徐々に下げて衝撃試験を行ったとき、吸収エネルギーが急激に低下したり、延性の破面から脆性の破面に変化するときの温度を図3のように遷移温度と言う。
【非技術的背景】
1935年頃から大形鋼構造物を溶接によって製造することが実用化され始めたが、まず、1938年ベルギーでハッセルト溶接橋が冬季の低温時に脆性破壊した。本リバティー船も戦時中の輸送力の確保という目的のために、効率的に製造できる全溶接を採用し、大量に生産した。しかし、溶接に対する知識(特に切り欠き脆性と遷移温度)が不十分であったため、生産量の1/4が破壊した。しかし、この事件の解明のために研究がもたらした成果は絶大で、その後の世界の溶接技術に大きく貢献した。