溶接後熱処理(PWHT:Post Weld Heat Treatment)は、溶接で生じた残留応力の緩和や変形の対策、母材・溶接部・構造物の性能改善(熱影響部の軟化、溶接部の延性、破壊靭性、クリープ特性、耐腐食性能、疲れ強さなどの改善、含有ガスの除去)を目的におこなわれる。焼入れ焼き戻し鋼の場合の加熱温度は、原則として焼き戻し温度以下とする。均一な加熱・冷却が要求される温度範囲は425℃以下とし、保持時間は溶接部の厚さで変化する。熱処理の影響を検討するパラメータとして、ラーソン・ミラーのパラメータPを用いる。
  P=T(20+log t) T:熱処理温度(K) t:保持時間(h)
 溶接後熱処理の影響として、下記があげられる。
 @残留応力の緩和:Pが18〜19×103 の間で急激に低下する。(図1)
 A引張強さ:一般にPWHT温度が高いほど、保持時間が長いほど、低下する。(図2)
 B切欠靭性:Cr-Mo鋼の場合は向上し、690〜780N/mu級高張力鋼の場合は低下する。軟鋼・低温用鋼・Mn-Ni-Mo系溶接金属では変わらない。
 C溶接金属中の水素の低減:水素量は保持温度を高くすると急激に減少し、520℃で1h保持すればほとんど放出される。(図3)
 Dクリープ強さ:PWHT温度で変化する。図4に21/4Cr-1Mo鋼の変化を示す。
 E結晶粒の成長:PWHTは溶接金属の組織を安定にするが、フェライト結晶粒を成長させるため、過度の温度での処理は溶接部の靭性を低下させる要因となる。
 F焼き戻し脆性:低合金鋼およびその溶着金属が371〜593℃の温度範囲で長時間保持された場合に脆化する。原因は結晶粒界への不純物(P、Sn、As、Sbなど)の偏析といわれている。最近では材料の化学成分および熱処理の改善で、かなり脆化を防止できるようになっている。
 G再熱割れ:SR割れともよばれ、1Cr-0.5Mo、1.25Cr-0.5Mo、2.25Cr-1MoなどのCr-Mo鋼やVを含有する鋼で発生する。この種の鋼の場合は、溶接部の応力集中が小さい設計・施工、予熱・パス間温度の上昇など溶接熱影響部の硬化を低減する施工条件の選定、バタリング法の採用、溶接止端部の平滑仕上げなどの対策をとる。
 (参考文献:「溶接後熱処理基準とその解説」日本高圧力技術協会編、「接合・溶接技術Q&A1000」産業技術サービスセンター)


図 1.ラーソン・ミラーのパラメータPと残留応力


図 2.Cr-Mo鋼用溶接材料のPWHT条件と引張強さ


図 3.加熱による溶着金属水素量の減少例(AWS E6010溶着金属)


図 4.21/4Cr-1Mo溶着金属のPWHT温度によるクリープラプチャ曲線の変化(E9016-B3)