失敗百選 〜カナダで天然ガスパイプラインが破裂〜

1996年、2月27日早朝、6時19分ごろ、インタープロビンシアル・パイプライン社 (IPL: Interprovincial Pipeline Inc.)の外径864mmの第3ラインがサスカチェワン州、 グレナボン市(Glenavon, Saskatchewan)近くで破裂、漏洩。800m3の重油が漏れたが、 うち、600m3は回収、大事に至らなかった。 後に原因は、円管シームに添って発生していた外壁応力腐食割れ。低pH応力腐食もこの 応力腐食を助長した。会社ではパイプラインの状態保全プログラムが行われていたにも関 わらず、本腐食は問題視されていなかった。




【動機】
事故に遭遇しても、的確な処置をすることで被害を最小限にとどめることができる。 特に操作員が連絡を後に回して事故の閉じ込めに注力したことに注目したい。



【日時】1996年2月27日

【場所】カナダ、サスカチェワン州

【発生場所】カナダ、サスカチェワン州グレナボン近郊の農地



(右図:重油パイプラインからの漏洩事故付近地理 ,Sydrose提供)

【事象】
1996年2月27日6時19分、5本並行して走っている重油パイプラインのうち、第3ラインが破裂、 無人ポンプ局の圧力降下と重油流量増加を検知したアルバータ州エドモントン(Edmonton)の コントロールセンター操作員が速やかに当該2局を挟んで1000マイルにわたり、第3ラインの ポンプを全数緊急停止。損失重油量は800m³、そのうち600m³が回収された。迅速に修理が行われ、 破裂からおよそ20時間後の1996年2月28日、2時27分、第3ラインは平常どおりに戻った。 この破裂はこの時期9ヶ月間に起こった3回目の破裂であった。破裂したパイプにはポリエチレンテープが コーティングしてあり、これが原因のシーム溶接に沿った応力腐食割れ、さらに環境に影響された腐食が 原因と見られている。この事故を受けてパイプライン会社では検査、修正計画を見直し、 カナダ国家エネルギー局にその見直し案が認証された。
【経過】
1996年2月27日6時19分、5本並行して走っている重油パイプラインのうち、第3ラインにグレナボン (Glenavon)ポンプ(Mile Post:MP 505) とラングバンク(Langbank)ポンプ(MP 544)の両中継局で急激な圧力の減少と重油流量の増加が検知された。場所はサスカチェワン州、 グレナボン市とラングバンク市の近郊。アルバータ州エドモントン(Edmonton)にあるコントロー ルセンターでは通常、24時間、週7日体制で操作員がこれら2つの無人ポンプを遠隔操作する。

6時20分、破裂から1分後、エドモントン・コントロールセンターから操作員がアルバータ州 ハーディスティ(Hardisty, MP 109)から米国ウィスコンシン州スーペリア(Superior, MP1097)までの第3ラインの全ポンプ局に緊急停止を発信した。 6時24分、エドモントン・コントロールセンターは、警察当局にグレナボン−ラングバンク間でパイ プラインからの漏洩があったようだと報告。

6時26分、コントロールセンター操作員はオデッサ(Odessa, MP 473.479)、ラングバンク(MP 543.839)、さらにMP504.860とMP543.980(ラングバンクの下流約200m)の遠隔操作バルブに閉鎖 コマンドを送信。6時29分にはこれらバルブの閉鎖がデータシステムで確認された。さらに6時30分 には第3ラインの閉鎖も確認。6時38分にはIPL社管理職に漏洩したらしいことが報告された。 6時40分にはIPLのパイプライン保守責任者がレジーナ(Regina)とグレナボンポンプ局から修復チーム を編成、派遣した。 8時45分、グレナボンポンプ局の下流約3kmのMP506.6830 で修復チームが破裂箇所を発見、周囲を隔離した。ちょうどこのころ、パイプライン保守責任者が 修復プランを立てた。その計画に従い、破裂した第3ラインの部分は切り出し、11.6mのパイプセク ションを溶接することで修理された。その後でパイプはサンドブラストで表面処理、ポリウレタンをスプレー塗布した。 1996年2月28日、2時27分、破裂後、20時間で第3ラインは復帰した。この事故による死傷者はなかった。

漏洩した重油はおよそ800m3。うち、600m3が無事回収された。回収されなかった分は、 当時、真冬で漏洩地が雪と氷におおわれていたため、地面と雪と氷を処分することで無事 廃棄され、その土地に影響を残すことはなかった。
【原因】
破裂した第3ラインのパイプは外径864 mm、肉厚7.14mm。軸方向に溶接したシーム管で、1968に製造、ポリエチレンテープでコーティングされていた。 破裂部分は1968年に6.2MPa の静圧試験を受けていた。

事後の土壌検査では破裂したパイプが埋められた場所では、硫黄分が多く、pHは7.35から7.95の間(ほぼ中性)。 これに起因する金属組織粒子間の腐食を「低pH」応力腐食割れと呼んでおり、今回はこの腐食が軸方向シームの 溶接に沿って大きい割れが起こっていた。ここで「低pH」と呼んでいるのはpHが低いからではなく、米国でよく 起こっていた「高pH」による応力腐食割れと区別するためである。 低pH応力腐食割れは以下の4条件が重なると起こることが解明されている。
  1. 金属組織粒子間に引っ張り応力を、ある閾値以上に発生させる円周方向引っ張り応力、や残留引っ張り応力。
  2. パイプ表面がほぼ中性のやや腐食作用を起こす媒体に接触している。
  3. 化学電気ポテンシャルが割れの部分に生じている。
  4. パイプ内圧が変動している。
さらに今回の破裂ではポリエチレンテープによるコーティングが問題であった。 ポリエチレンテープを使用すると、剥がれ、変質などのために、テープがせっか くの防食電流が効力を発揮しないことになる。また、テープがはがれると水分や 塩基分などが、パイプ表面に接触することになる。今回破裂したパイプでは、溶 接シームがパイプの3時と9時位置にあり、テープがテント状態になって剥がれや すくなっていたことも問題であった。
【対処】
コントロールセンター操作員は破裂箇所を十分に挟む2箇所のバルブを即座に閉鎖した。 その後責任者に報告をし、報告を受けた責任者は、対策を作成、実行に移して20時間で重油の破裂から復旧した。
【知識化】
事故が起こったとき、冷静な判断力が必要。特に着目したいのは、コントロールセンター操作員が、 上司への報告を2の次にしてまず正しい処置をしたこと。日ごろの訓練がなければ、できないことだろう。
【対策】
IPL社では、Odessa (MP473) からCromer(MP596)に至る197kmの区間に付き、動作圧を80%に抑え、同区間内のパイプの安全が確認されるまで、この状態で運転する。この区間につき、静圧試験を繰り返すこと。同区間パイプラインの安全に付き、報告書を提出すること。以上、を当局に約束し、1996年3月29日に提出した。
【背景】
グレナボンとラングバンクの間は1981年から1995年の間、3回破裂が起きており、IPLでは、 61箇所にわたって地面を掘り起こして検査、修復をしている。この修理は、今回の破裂箇所と同様、 パイプ継ぎ目の外部腐食部分にスリーブをかぶせるものだった。 破裂したパイプには、防食電流が流されており、1988年から1994年の検査では、当該箇所の印可電圧は十分であった。
【情報源】
  • http://www.bst.gc.ca/en/reports/pipe/1996/p96h0008/p96h0008.asp
  • http://www.tsb.gc.ca/en/media/communiques/1999.asp