失敗百選 〜アンテナ吊り上げ中にボルトが外れ転落〜

【動機】
単純に思える強度計算も、モデルの作成を間違えるととんでもない災害を引き起こすことがある。
利潤追求の現代ビジネスの中で、ある者の損失回避のため、矛盾しているとわかっていながら 無理な工夫をしてそのときの検討、知識が足りなくて人が死んだ。 現代に生きる工学者に警鐘を鳴らす事例を紹介したかった。
1982年、米国の某テレビ局で、設置工事中の高さ305mテレビ塔が崩壊し、 5名の作業員が死亡した。

【日時】1982年
【場所】アメリカ
【発生場所】テレビ局の敷地
【背景】
1982年、テレビ局用に高さ 305m、3 脚のテレビ塔・アンテナが設計され、下から順に、 次のパーツを吊り上げながら組み立てて施工されたが、アンテナ部の吊り上げが難航。 臨時の取手をつけて吊り上げ作業を開始するが、臨時の取手が損壊しテレビ塔は崩壊、 作業員5人が死亡。

(右図:テレビ塔崩壊の失敗代表図,Sydrose提供)

【経過】
施工の現場で、最後の部品となったアンテナ部は、側面にバスケットがついており、形状が他部品と違っていた。 この突出部が吊り上げ時にケーブルに引っかかることが判明。
施工業者はマイクロ波バスケット部を一時的に取り外し、 アンテナ本体を取り付けた後でマイクロ波バスケット部を戻すことを提案するが、設計企業は、 バスケット部を外すと保証が無効になると主張。
施工業者はやむなく臨時の取手をつけて吊り上げ作業を開始するが、臨時の取手が損壊しテレビ塔は崩壊した。
そのとき、吊り上げているアンテナには2人、 組み上げ中のタワー側にも2人の作業員がいたが、4人全員が転落、地上にいた1人を巻き込んで、 合計5人が死亡した。
【原因】
臨時の取手に使用したボルト素材の強度が規定の半分であった。
また、施工業者が算出した臨時の取手に使用されるボルトへの過重負担が誤っており、 実際は各ボルトに7倍の負担がかかっていた。
施工業者の計算は、右図左のように単純にボルト2本にかかるせん断荷重を考えたものだったが、 実際には、右図右のように横から見たら治具のアーム長(30cm)による曲げモーメントを無視したものだった。

さらに使用したボルトの強度が、仕様どおりの強度を持っていない欠陥品であることも後にわかった。 つまり、欠陥部品と計算のモデル間違いのため、この惨事が起こった。 仕様どおりの強度が当該ボルトにあったとすれば、正しい計算をするとぎりぎりボルトの破壊は免れた。 施工業者は計算の安全率は正しく適用したが、モデル自体が間違っていたわけである。

(右図:施工業者の計算と実際の負荷,Sydrose提供)

【対処】
最後に吊り上げる部品が耳のようにバスケット状の部品がついていたため、それがひっかかってうまく吊り上げられず、 無理な工夫をして惨事が起きた。死亡した作業員は300mの高さから転落。即死であったため、 周りは何もできずに茫然自失。情報源として最後に揚げた ENGINEERING ETHICS には事故の様子を捉えた貴重な写真やビデオも紹介されているので、見ると良い。
【背景】
アンテナの設計会社では以前に同じ理由でバスケット部の取り外しを認め、施工業者が再び固定したときに 間違って取り付けたことがあった。この間違いがアンテナの設計会社の責任とされ、修正のため、 250万ドルの損失を出したことがあった。
【後日談】
ボルトの製造企業はこの事故の1年前に起きた別の事故で、ボルトの性能が問われていた。 今回の事故で起訴されたが、法廷外で和解。
【知識化】
金銭的責任回避ばかりに気を取られると、もっと大事な事故を未然に防ぐということを忘れてしまう。 責任を他社(者)に押し付けることに成功してもその相手が事故を起こせば、責任を回避したとはいえない。 機械工学を学ぶことは、きちんと意味があり、予定と違った工程や手順を取るときはきちんと専門家の 意見を聞かなければ成らない。
【情報源】
http://ethics.tamu.edu/ethics/tvtower/tv3.htm