失敗百選 〜ネバドデルルイス火山の泥流災害(1985)〜

【事例発生日付】1985年11月13日

【事例発生場所】コロンビア、トリマ州ボゴタの西約140km

【事例概要】
南米コロンビアのネバドデルルイス火山が噴火、発生した大泥流により25,000人にもおよぶ死者が出た。火山火災としては、 1902年の西インド諸島のマルティニーク島にあるプレ火山の大噴火の際、火砕流により麓のサンピエール市で28,000人の死者 が出たのに次ぐ20世紀最大規模の火山災害であった。折角事前に作成し配布したハザードマップ(災害予想図)を活用しなか ったためであった。

【事象】
南米コロンビアのネバドデルルイス火山が噴火、発生した大泥流により25,000人にもおよぶ死者が出た。

(右図:黄色がコロンビア共和国)

【経過】
1984年11月、ネバドデルルイス火山で火山性地震が頻発し始め、 山頂のアレナス火口の噴気活動が活発化した。
1985年9月11日、水蒸気爆発を起こし、泥流が27km流下したが、被害はなかった。
11月7日、コロンビアの国立地質鉱山研究所が、アメリカの火山学者の指導の下に、過去の火山噴出物の性質や年代から、これまでの火山活動の特徴を洗い出し、将来の噴火によって、流下噴出物、溶岩流、火砕流、泥流などによる災害の発生する地域を予想するハザードマップ(災害予想図)を作成したものを公表し、地方自治体や関係諸機関に配布した。
11月13日午後3時ごろに噴火が始まり、9時すぎには最高潮に達した。このとき、山頂のアレナス火口から火砕流が発生し、周辺の氷河上に広がった。
高温の火砕流が氷河を覆ったため、大量の氷が溶けて泥流が発生した。泥流は火山の東、北東、西の斜面を流下した。アンデスは壮年期の山脈で、隆起速度が大きく、そのため急峻な斜面が形成されている。泥流は急斜面を流下するにつれて速度を増し、その運動エネルギーで通り道に当たる谷を削って大量の土砂を取り込み、次第にその規模を拡大していった。 このうち東に向かった泥流は、深夜に火山の山頂から約50kmも離れていたアルメロの町を襲った。町の90%の建物を埋めたり押し流したりした。アルメロの人口29,000人のうち、21,000人が犠牲者となった。
【原因】
@ 泥流の直接の原因は、ネバドデルルイス火山の噴火によって、山頂のアレナス火口からの火砕流が周辺の氷河上 に広がったためである。
A アルメロの町に大災害をもたらしたのは、地形的な要因もある。山頂直下に源を発する2つの川が合流し、峡谷を刻ん で平野に出たところ、すなわち扇状地の上に発達した町であった。
B しかし、人的被害を最大にしたのは、折角ハザードマップを配布されながら、現実の防災に生かせなかったことである。
【対処】
各国からの緊急救助隊が駆けつけ、懸命な救助活動を展開したが、泥深い状況のため地上から現場に近づくことができず、ヘリコプターによる救出活動に頼るのみであった。
【対策】
不明
【背景】
ネバドデルルイス火山は、標高5,399m、アンデス山脈の最北端の活火山である。ネバドとはスペイン語で 「雪山」を意味しており、雪線の高さが約4,800mであるため、それより上は氷河が発達している。 アルメロでは、今回の噴火の140年前1845年にもネバドデルルイス火山からの泥流で、約1,000人の死者が出たという 記録がある。
【知識化】
@ ハザードマップは有効だが、災害時の実際の行動がなければ何の意味もない。
A 火山の噴出物の熱によって、雪氷が溶け、泥流が発生する。日本列島の火山にも当てはまる。
B 自然災害に関する備えとして、地形に関しての危機管理が必要である。災害のときにどの方向、どのルートに 避難するか、など。
C 昔の災害は伝承されにくいが、歴史は繰り返すことを認識する必要がある。
【総括】
噴火などの自然災害の原因を取り除くことはできないが、折角国から配布されたハザードマップを地元の自治体 は現実の防災に活かすことができなかった。しかも、皮肉にも泥流はこのハザードマップのほぼ予測どおりのコース を辿って流下した。
いかに精度の高いハザードマップであっても、自治体も含め関係者がその内容を読み取る能力に欠けていたり、 防災対策や緊急時の情報伝達体制などが欠落していては、災害から逃れられないことを、この事故は教えてくれている。

<引用文献>
世界の重大自然災害、伊藤和明:ネバドデルルイス火山の泥流災害(社)日本損害保険協会

以上