失敗百選
〜地球観測衛星「みどり」の太陽電池パネル破損(1997)〜

【事例発生日時】1997年6月30日

【事例発生場所】
   地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(ADEOS)
   (ADEOSは、Advanced Earth Observasion Satelliteの略)

【事例概要】
   1997年6月30日、地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」 (ADEOS)は、太陽電池パドルのブランケット部が破断し、機能停止となった。

【事象】
   地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(ADEOS)は、 打ち上げから約10ヵ月後の1997年6月30日、太陽電池パドルのブランケット破断 の事故により発生電力がなくなり、機能停止(運用断念)となった。

【経過】
○事故以前の「みどり」の経緯
   1996年8月17日、種子島宇宙センターから打上げられた。
   1996年11月26日、定常段階に移行。
その後、約7ヶ月にわたって任務(地球環境問題の解明等に役立つ 地球観測データの取得など)を行っていた。
○事故当日1997年6月30日
   ・9時46分頃、 地球観測センター(埼玉県比企郡)
観測データが受信できなかった。
   同所で受信できた衛星のテレメトリデータにより、 「みどり」の衛星状態異常の可能性があることがわかり、 科学技術庁及び事業団内関係各部に報告。
   ・11時28分頃、沖縄宇宙通信所
上記報告を踏まえ、衛星状態を確認。
   衛星が地球捕捉モード及び軽負荷モードへ移行しており、 また、太陽電池パドルの発生電力がほぼゼロであることがわかった。
   ・13時10分頃、沖縄宇宙通信所
再度、衛星状態異常のままであることを確認。
   ・16時21分頃、キルナ局(スウェーデン)
衛星からはテレメトリデータが得られなかったが、 電力消費を抑制するために、ミッション機器およびヒーターをオールオフの処置 をするコマンドを送信した 。
   ・16時46分頃、ハービーショーク局(南ア共和国)
緊急コマンド(衛星の通信系機器のオン等)を送信したが、 衛星からの通信は回復しないまま。
   ・18時01分頃、キルナ局
   18時26分頃、ハービーショーク局
同様の緊急コマンド送信を再度送信したが、 衛星からの通信は回復しなかった。
   ・19時05分
「みどり」運用の断念を発表。

【原因】
   ブランケット部が、軌道上の低温時に、(開発時予測より) 2倍程度収縮し、
テンションコントロール機構が可動範囲の限界に達した。
   このため、ブランケット部に過大な張力が加わって ピンヒンジ部の一部に応力が集中して破断。
   その後、熱サイクルによる張力変動等により 疲労劣化が進行し、最終的に、ピンヒンジ部及びはんだ付け部が 一列全て破断したことが原因と推定。

【対処】
   宇宙開発事業団は、 7月1日14時00分に、「事故対策本部」を設置。
地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」の 事故原因究明、及び、今後の計画に関する検討を行った。

【対策】
   @今後打ち上げられる各衛星への対応。
  • ADEOS-Uの設計変更、および、打ち上げ予定時期を再検討。
  • COMETSへの対策(試験・解析の追加など)
  • ADEOS-U,COMETS以外、リジッドパドルを用いているため、 パドルに対する特別な処置をとる必要はない。
  • ミッション実証衛星(MDS)、技術試験衛星VII型(ETS-VII) 及び陸域観測技術衛星(ALOS)については、 開発着手或いは開発研究段階であり、 今後の開発において十分反映可能である。
   Aユーザーや利用機関に対する対応。
  • ADEOS取得データの有効活用
  • ADEOSの代替衛星データの提供
  • 代替衛星についての検討
   B今後の衛星開発・運用計画の改善。
  • 現状の評価をした上で、改善をはかる。
  • 衛星開発のリスクを低減する必要がある。
  • 衛星状態変化の早期検出を可能にする運用体制へ改善をはかる。
   C技術開発能力の向上・蓄積をさらに強化。
  • 外部専門家・外部機関との連携強化、人材育成と処遇、 業務の合理化・効率化、情報システムの改善。

【背景】
   地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」:
   地球の温暖化、オゾン層の破壊、熱帯雨林の減少、 異常気象の発生等の環境変化に対応した全地球規模の観測データを取得し、 国際協力による地球環境監視に役立てるとともに次世代観測システムに必要な ミッションレコーダーによるデータ収集、プラットフォーム・バス技術、 軌道間データ中継技術等の開発を行うことを目的とした衛星。
   今回の事故により、データの利用者(ユーザー)に大きな影響を 与える結果となった。

【知識化】
  1. 大電力、大型軽量のフレキシブル太陽電池パドルのような、 数多くの要素技術を含む開発を進める際には、 基礎的なデータを積み上げ、各種の試験により 実証していくことが重要。
  2. 事前に万全な配慮のもとに開発を進めたとして、 予想外の状況が宇宙空間で起きる可能性は否定できないので、 設計に十分なマージンを持たせることが需要。
  3. 新規開発のシステムを打ち上げる場合は、 軌道上での作動状況を評価できるよう配慮する。
【総括】
   地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(ADEOS)は、 1997年年6月30日に太陽電池パドルのブランケット部が破断し、機能停止になった。
   宇宙開発事業団は、即座に事故対策本部を設置し、 原因究明を進め、今後の対策の検討に取り組んだ。
   今回の事故の教訓を生かし、より確実に 今後の宇宙開発を進めていくことが大切である。

【引用】
宇宙開発事業団:
「ADEOS事故原因究明説明資料(改訂版) 平成9年9月4日」
「地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(ADEOS) の機能停止についての原因究明及び今後の計画に関する報告書 平成9年10月」

以上