失敗百選 〜日比谷線の列車脱線衝突〜

【概要】
   営団日比谷線下り線の北千住発菊名行き8両編成列車の8両目車両が、 中目黒駅手前のカーブで脱線しはみ出した。そこへ下り線から軌道中心間隔3.5mの上り線を、 東武鉄道の中目黒発竹ノ塚行き8両編成列車が走行してきて、 5両目と6両目車両が脱線車両に衝突した。日比谷線の8両目車両の車輪が、 レールに乗り上がって脱線した(いわゆる「乗り上がり脱線」と推定される。 この衝突で、死亡5名、負傷者63名の犠牲者を出した。

【日時】
   2000年3月8日

【場所】
   東京都帝都高速度交通営団 日比谷線中目黒駅構内

【事象】
   営団日比谷線下り線の北千住発菊名行き8両編成列車の8両目車両が、 中目黒駅手前のカーブで脱線しはみ出した。そこへ下り線から軌道中心間隔3.5mの上り線を、 東武鉄道の中目黒発竹ノ塚行き8両編成列車が走行してきて、 5両目と6両目車両が脱線車両に衝突した。この衝突で、死亡5名、 負傷者63名の犠牲者を出した。

【経過】
   2000年3月8日(水)の午前9時ごろ、 営団日比谷線の下り線(A線)を、北千住発菊名行き8両編成の第A861S列車が、 乗客数約100名を乗せて中目黒駅に向かっていた。
   9時01分、レール起点から18km340m付近の半径約160mの左円曲線に続く、 緩和曲線の始端付近(こう配上り35%)を速度12〜13km/h(推定)で走行していたところ、 8両目(乗客数6名)の前側台車の全2軸が脱線し、18km390m付近に設置してある、 機材線用横取り装置(線路の保守を行なうための車両を留置場所から、 本線に引き込むための装置)リードレール部において、 脱線した車両が進行方向にはみ出した。そこへ、下り線(A線) から軌道中心間隔の3.5mの上り線(B線)を走行していた、 東武鉄道の中目黒発竹ノ塚行き8両編成の第B801T列車が、 乗客約1,000名を乗せて走行してきたため、5両目車両(乗客数約125名) の前部と6両目車両(乗客数約125名)の前部に日比谷線の脱線車両に衝突した。
   これにより第A861S列車の8両目の車両および第B801T列車の5両目および6両目車両が、 大きく大破した。
   図1は、事故列車の位置関係を示したものである。



   この衝突で、死亡5名、負傷者63名の犠牲者を出した。
   衝突後、第A861S列車は車掌の非常ブレーキ操作により停止、 第B801T列車は、5両目と6両目の間にあるブレーキ用空気管が損傷して、 自動的に非常ブレーキが動作して停止した。
   車両の損傷状態に関して、第A861S列車の8両目車両の車体は、 進行方向右側の端部より中央ドア付近までの側面が大きく損傷し、脱落していた。 第B801T列車の5両目車両の車体は、前方右側の端部が損傷し、 車両中央部のドア付近から車両の後端まで車体右側側面に擦傷跡があった。 6両目車両の車体は前方右側の端部から最初のドア部までの側面が損傷脱落し、 損傷端部がめくれた状態に大破した。また、4両目車両の後部、 7両目車両の中央部から8両目車両の側面にかけて、わずかながら擦傷痕が見られた。 5両目車両と、6両目車両の連結部については、車両の右側に位置する電気ケーブル、 および空気管の損傷、破損が見られた。
   脱線した個所付近の進行方向右側のレール(曲線の外軌側レール) の上面には、18km333m付近から約7mにわたり、車輪のフランジによる走行痕が認められ、 その脱輪位置よりも約1m手前にも短い痕跡が認められた。また、 同じ落輪位置の内軌側のレールにも、短い痕跡が認められた。
   また、脱線した車両の第1軸外軌側車輪の踏面およびフランジには、 図2のような痕跡が車輪の約半周(1.3m)にわたり残されていた。



【原因】
   今回の脱線は、左急曲面に続く緩和曲線の始端付近 (この個所は、構造上の軌道面の緩やかなねじれ(保安基準内の誤差を含む) により、右側車輪の「輪重(車輪がレールを下方向に押す力)」 の減少と「横圧(車輪がレールを横方向に押す力)」の増加が生じる) という線形条件の個所において、輪重減少や横圧増加を引き起こす、 複数の因子の影響が複合的に積み重なったことにより、 8両目車両第1軸の右側車輪の脱線係数が増大し、 車輪がレールに乗り上がって脱線したことによるもの (いわゆる「乗り上がり脱線」と推定される。
   その因子として、脱線した車両は、
  1. 製造時における静止輪重の測定結果において、 第1軸右側車輪と第4軸左側車輪の静止輪重が小さく、 車両の体格におけるアンバランスを有していたこと
  2. 共用後、静止輪重の測定・調整等の管理が行なわれていなかったこと
  3. 事故発生後に行なった、他の同形式(03系) の車両の静止輪重の測定結果において、 大きなアンバランスが計測されたこと
から、事故当時に第1車軸に大きな静止輪重のアンバランスを有しており、 それが脱線に大きく影響したものと考えられる。
   その他の因子としては、 以下のものが輪重の減少と横圧の増加を助長したものと考えられる。 なお、これらには、現在の設計・保守に関する技術的評価では特に異常とみなせないものや、 管理が困難なものも含まれており、また、各因子の脱線への影響度も一律ではない。
  1. 脱線個所付近の車輪・レール間の摩擦係数が事故発生時刻に増大したと推定され、 それが横圧の増加をもたらしたこと
  2. 当該車両の空気ばねの台車転向に対する剛性、台車の軸ばねの特性が、 横圧の増加及び輪重の減少に影響したこと
  3. 摩耗・損傷等の軽減を目的として研削されたレールの断面形状が、 当該車両の踏面形状との組み合わせにおいて、横圧の増加に影響したこと
    なお、輪重減少や横圧増加に直接影響を与えたものではないが、 研削されたレールの断面形状では、車輪踏面がレールから浮き上がった場合に、 新品レールに比べて少ない浮き上がり量で車輪がレールに乗り上げることから、 この断面形状は、脱線の限界値にも影響を与えた因子と考えられる。
【対処】
   事故が発生した3月8日に運輸省で第1回目の事故調査検討会 (座長:井口雅一東京大学名誉教授)が開催され、事故の現地調査報告、 ワーキンググループの設置や運転再開までに取るべき処置などを討議した。
   緊急処置として、以下のことを決定した。
  1. 同形式の車両の空気ばね及び台車の総点検を行なうこと
  2. 脱線した個所に脱線防止ガードを設置すること
  3. 脱線した個所では運行速度を15km/h以下にすること
   また、3月16日開催の第2回目の検討会において、 同種事故の再発防止の観点から、 営団を含む全国の旅客輸送を行なう鉄軌道事業者に対する緊急的な処置として、 以下の対策が必要との判断を行なった。この対策については、 運輸省より該当する鉄軌道事業者に、指示が行なわれた。
   半径200m以下の曲線部において、
  1. 曲線に続く緩和曲線部において、可及的速やかに脱線防止ガード、 脱線防止レール又は安全レールを設置すること
  2. 1以外の区間において、以下の条件を菅生的に勘案して必要性が高いと考えられる個所から、 優先的に計画を策定し、できるだけ早期に脱線防止ガード、脱線防止レール、 又は安全レールを設置すること
    • カント逓減倍率(レール敷設面の勾配の変化率)
    • 曲率半径
    • 反向曲線
    • 急こう配及びこう配変更点
    • 脱線があった場合の被害状況(分岐器の手前、橋梁上等)
【対策】
   帝都高速度交通営団は10月30日、 日比谷線中目黒駅付近での脱線衝突事故に対して、 運輸省の事故調査検討会が提言した再発防止策を受けて、具体的な事故防止策を発表した。 静止輪重比(片方の車輪の輪重が左右の輪重の平均値からどれだけ偏っているかを、 百分率で表わしたもの)は、日比谷線03系は6月までに全車両を、 他線でも10月10日までに9割を15%以内に調整済み。 引き続き2001年度中に10%以内に引き上げた。静止輪重比の調整にさいし、 新たな調整装置を5台導入した(1台あたりの設置費用は4〜5千万円)。  車輪のフランジ角度は日比谷・千代田・有楽町の各線が60度だったが、 日比谷線は11月9日までに70度に変更、千代田・有楽町線は2001年9月までに変更した。 他線は当初から67〜70度だった。
   急曲線部のレール削正は可能なかぎり新品の断面形状に近づけることとするが、 最適形状の検討については鉄道総研に委託した。
   また、脱線個所の線路は2000年内に緩和曲線長を10m延ばして40mにした。

【総括】
   事故直後から10月26日にかけて、事故調査検討委員会は、現地調査をはじめとして様々な調査・ 検討を行なった。特にこの事故の最大の問題である脱線要因を明らかにするため、 事故発生現場において可能な限り当時の事故状況を再現して走行試験を行なうとともに、 シミュレーション等を活用して、脱線の発生に影響を与えたと考えられる各因子の影響度等の解析を行い、 脱線現象の解明を行なった。
   脱線に対する余裕度を、推定脱線係数比=限界脱線係数/輪重・横圧推定式に基づく脱線係数 (推定脱線係数)で評価した。推定脱線係数は曲線外軌側の横圧最大値と輪重最小値の比である。 様々な要因による輪重・横圧の発生メカニズムの理論と曲線通過時の実測データを使って解析された。
   今回のような調査は事故調査検討会として初めての調査であり、この調査で得られた貴重な経験を、 今後の事故調査体制の充実のために活かすことが極めて重要との認識から、7月31日の第5回検討会で、 今後の事故調査体制のあり方について、以下のような意見をまとめ公表した。
  1. 事故発生時の即応性の確保、事故調査に関するノウハウやデータの蓄積および、 事故調査の継続性の確保が必要。このため、専門技術的な立場から事故調査ができる常設・ 専門の調査体制を整備し、再発防止策が講じられる体系を構築すること。
  2. 1に掲げる事故調査を円滑に遂行するために、報告徴収、物件の留置等を確保すること。
  3. 鉄道事故に関する基礎的研究を推進すること。
【知識化】
   事故は様々の因子の複合で発生する場合がある。事故発生に影響を及ぼしたと考えられる各因子について、 実現可能性を考慮しながら、総合的に事故に対する余裕度を推定することが必要である。 そして再発防止のためには、事故の状況や現象を正確に把握することが不可欠である。 また、事故の発生限界(余裕度)は、部品摩耗など使用にともなう形状変化で低下するので、 摩耗限界などの管理が欠かせない。

【背景】
   これまで鉄道事業者は、新形式車両の導入、新線開業、スピードアップ等に際して、輪重・ 横圧測定試験を実施し、安全性の確認を行なってきていた。これらの試験においては、 予定している運転速度を前提に、先頭第1軸を中心に測定が行なわれてきていた。 (事故後に行なった現地走行試験等の結果、急曲線に続く緩和曲線部を低速で走行した場合に、 輪重が小さい軸において高い脱線係数が観測されることが明らかになった。)

【参考文献】
事故調査委員会:帝都高速度交通公団 日比谷線中目黒駅構内列車脱線衝突事故に関する調査報告書 (2000年10月26日)
鉄道ジャーナル2002年2月号 NEWS FILE (Railway Topics)http://www.railfan.ne.jp/rj/main/news_102x.html