経過

2000年秋頃から2002年夏頃にかけて、富士通のパソコン用HDDのフィールド不良が 急増、不良率は通常は50ppm以下のところ2桁以上高い0.8%に達した。2002年7月,富 士通がパソコンおよびPCサーバ内臓ハードディスク装置の不具合について公表した。こ のHDDを搭載したパソコン・メーカーに対して富士通は無償で交換した。このための負 担額は100億円を超える見込みである。原因に関して富士通は,HDDコントローラLSIに原 因があり,高温多湿の条件で長時間使うと不良に至るとした。HDDコントローラLSIの不良 は、住友ベークライト製パッケージ封止材に起因するパッケージ内のピン間で短絡する故障で ある。

このHDDコントローラLSIはファブレスの米Cirrus Logic Inc.製で,このメーカーが住友ベークライトの封止材を使っていた韓国パッケージ組み立て業者にパッケージ組み立てを委 託していた。セット・メーカーの富士通と住友ベークライトの間には二つのメーカーが入って いたことになる。半導体産業の水平分業の典型的なパターンでの製品不良となった。

このパッケージ封止材に起因する問題は2000年夏ごろから起き始め,2001年には複数の LSIメーカーやセット・メーカーで製品のトラブルが多発するようになった。2002年5月に は、米国内で既にこの問題が指摘されていた。米メリーランド大学内にある世界の50社以上 の通信、航空、自動車、電子機器メーカーや連邦政府などの資金で活動している産学協同の研 究機関「CALCE」が、複数の会員企業からの報告に基づき調査したところ、製品を稼働させ てから6〜12カ月間で問題が起きることが多く、不良率は約1%という結果を得た。HDD以 外の分野でも、セットトップ端末、パソコンのメインボード、産業用機器当のLSIに波及した。 現在,トラブルに巻き込まれたLSIメーカーやセット・メーカーが,問題の封止材の製造元で ある住友ベークライトと交渉中である。中には米Cirrus Logic Inc.のように,住友ベークライ トなどを相手取って係争中のところが出てきている 富士通のケースと似たような不具合を半導体の検査装置メーカーであるアドバンテストも経験している。同社は2000年秋から、最新型の半導体用検査装置に米社製の半導体を使ったところ、次の年の夏、湿気の多い暑い日に故障が多発した。不良率は通常よりも150倍以上も高い1%弱に達した。分析の結果、封止材に問題があるとの結論が出て、米半導体メーカーから賠償金を受け取った。 富士通とアドバンテストで不具合を起こした半導体に使われていたのが、同じ封止材で、 同材料で世界シェアトップの住友ベークライトが製造した「EME-U」であった。燃えると毒 性の強い化合物が生成される物質の代わりに無機リンを化合した環境対応製品という位置 づけであった。アドバンテストでは、無機リンの品質などに問題があったため、高温、高湿と いう環境下で不具合が発生したとしている。

問題になっている住友ベークライト製の材料「EME-U」シリーズは1995年に開発を完了し,1996年6月からユーザーへの製品供給を開始した。問題発生の情報が2001年5〜6月に入り,6月には対策本部を設置した。2001年8月には販売打ち切りの方針をユーザーに伝えた。3カ月の移行期間を含め,11月には生産中止の意向だったが,ユーザーの中には供給継続を求める声があり,実際に中止できたのは2002年7月だった。2002年7月に販売を中止するまで約1000トンを世界の13ユーザーに出荷した。これは同社の生産量の1%以下である。

ユーザーメーカーでは、数千ppmから数%と高い不良率になっているが、住友ベークライトによると同社が把握している不良を合計しても出荷量である約1000トンに対して数十ppmにとどまっているとしている。今回の材料を使った機器で不良が発生していることを住友ベークライトは否定していないが,原因は究明できておらず封止材だけが原因で今回の問題が発生したとは断定できていないとし、全面的に責任を認めているわけではない。「製品納入時の仕様書はわずか7ページ程度と簡単なもので、一般的なテスト項目や物理的、科学的特性しか記されていない。どのような条件下で使用する製品かも明記されていない。大多数のユーザーでは問題は起こっていないし、原因は複数の要素が組み合わされたためで、無機リンだけが原因ではないとし、訴訟に関しては争う姿勢である。

しかし、企業間の争いよりも、消費者にとって問題となるのが、同様の不具合が別の電子製品にも広がるのではないかという懸念である。この封止材の販売開始から終了までの全出荷量は1000トンと、同じ時期に住友ベが出荷 した全封止材の1%未満という。しかし、CALCEのヒルマン博士はこの封止材を使った半導体を搭載した機器は軍から、通信、航空産業まで幅広い分野で利用されている。まだテストを行っておらず、問題に気がついていない企業もあるはずで、影響が広がる可能性があると警告している。