失敗百選 〜高速道路で自動車に鉄製ふた直撃〜

【事例発生日付】1999年4月20日

【事例発生場所】東京都江戸川区

【事例概要】
東京の首都高速7号線で走行中の乗用車のフロントガラスに鉄製の側溝用ふたが直撃。運転者が死亡した。 溝から外れていたふたを、対向車線のトラックが跳ね上げたためであった。

【事象】
東京の首都高速7号線で走行中の乗用車のフロントガラスに鉄製の側溝用ふたが直撃。運転者が死亡した。
【経過】
1999年4月20日の7:05頃、東京都江戸川区の首都高速道路7号線を運転していたところ、突然反対車線から 排水口の鉄製の側溝用ふた(重さ約7キロ)が、乗用車のフロントガラスに飛び込み、運転していた男性(43)を直撃し即死させた。

事故以前の経過
1988年4月〜1991年4月、首都高速道路公団は、ふたが外れたり跳ね上がったりするトラブルを「跳上現象」と名付けて データを収集、分析。その結果、「高速道路を走行する車両から予想以上の負荷が路面にかかり、タイヤの回転力で生じ る衝撃で、ふたを跳ね上げる現象が発生する」「ふたの構造を安全なものに変更する必要がある」などとして、両端に突 起をつけるなどした改良型の仕様を数種類定めていた。
1992年10月22日、横浜市西区の首都高・神奈川2号線(三ツ沢線)で、前方の車が跳ね上げた排水口の鉄ふたがトラックのフロン トガラスを直撃し、男性運転手(35)が腰に軽傷を負った。公団側は治療代や自動車修理代などを支払っていた。
1993年〜、公団は、跳ね上がり防止対策として、5年間で首都高全線で5万箇所あるふたのうち1,300箇所を改良したが、7号線 については改善措置を講じていなかった。
1993年3月、公団は道路維持管理会社から、事故を起こした鉄製ふたの鎖が腐食して切れているという報告を受けていたが放置 していた。
1996年1月、公団は、鉄製ふたについて「最近、外れたり傷ついたりしており、首都高の管理上の課題の一つとなっている」 「試験的に導入した改良ふたは、外れることは皆無であり、一日も早く取り換えて安全を確保したい」などとする報告書を 作成していた。
【原因】
1.対向車線のトラックが鉄製ふたを跳ね上げた・・・・・異常事態発生(不可抗力)
小型トラック(1.5トン車)が、新宿区の会社から千葉県内へ仕事に向かう(事故者の反対車線)途中、中央分離帯寄りの追い越し車線から路肩に入り込んで走行中、側溝の鉄ふたを跳ね上げた。ふたは高さ1mの中央分離帯ガードレールを超えて対向車線に飛び込み、通りかかった乗用車のフロントガラスに当たった。

2.鉄製ふたが側溝から外れていた・・・・・安全意識不良
ダブルタイヤになっている後輪の右外側のタイヤが、側溝から外れて路面にはみ出していた鉄製ふたを踏んだ時、 ふたの反対側が跳ね上がり、その勢いでふたが跳び上がった(推定)。同時にタイヤが破裂した。
事故後の調査によると、首都高7号線の1,836箇所の鉄ふたのうち、1,799箇所で盗難防止用の鎖が切れていた。 ふたが外されていたところも33箇所あり、鎖が正常に付いたものは4箇所だけだった。
事故を機に同じ型の鉄ふたを撤去したが、回収した295個のうち43%が変形していた。 江戸川区東小松川の首都高速道路7号線上り線中央分離帯ガードレールわきの排水口の鉄製ふた(重さ約7kg)が、 多数の通行車の振動でずれ、路面にはみ出していた。    
【対処】
首都高速道路公団は4月20日から24日の首都高全線について集水桝の緊急点検、従来の点検に加え4月21日から首都高全線 について集水桝に着目した道路施設特別点検(毎月3回:早朝、午前、午後)および応急処置として、古いタイプの桝につ いて、集水桝のふたを撤去し、集水桝を砂袋詰めするなどの処置を実施した。
従来の点検は、日常パトロールでの落下物等の点検(落下物処理件数:約18000件/年)、専門技術者による道路施設点検 毎月1回および定期的点検として集水桝の清掃時に行なう点検月1回を実施していた。
警視庁交通捜査課と高速道路交通警察隊の捜査本部は、1999年12月16日、首都高速道路公団本社など関係先24ヵ所を業務 上過失致死容疑で家宅捜索した。捜査本部は「道路管理瑕疵事故報告書」や排水口のふたに関する資料、「緊急応急対策資料」 など計約700点などを押収した。
2000年4月27日、警視庁交通捜査課と高速道路交通警察隊は、首都高速道路公団の幹部4人を業務過失致死の容疑で書類送検した。
【対策】
事故発生のメカニズムを調査していた建設省の技術調査委員会が、1999年11月22日「安定の悪い鉄ふたが車に踏まれて 外れ、別の車に踏まれて対抗車線に飛び出した」とする最終報告書をまとめた。報告を受け、建設省は首都高速や阪神 高速にある排水口にある鉄ふたをすべて取り替えることになり、1999年度の補正予算案に約60億円を計上することにした。
【背景】
首都高速道路は、首都圏の社会・経済活動を支える大動脈として機能しているが、建設当初の様々な制約の下で、 河川空間等の狭隘な公共空間を活用し緊急に整備されたことや、人口の首都圏集中などから、交通渋滞、交通安 全等の課題が大きくなっている。
加えて、首都高速道路都心環状線等は最初の供用からおおむね40年が経過し、本格的な維持・更新が必要となり、 それにともなう費用の増大がある。安全をいかに効果的に確保するか、その知恵が問われている。  
【知識化】
@ 危険性を認識していても対策が講じられるとは限らない。運転する側からみれば、常に注意して自己防衛を図るしか なさそうである。逃げ場のない高速道路では大変困難であるが。
A 事故情報は組織上層部に伝達されにくい。公団管理者は「事故が起こっていたのは知っていたが、人身事故の発生までは 予想できなかった」と話していたらしい。しかし、同種の事故は過去10年間で約20件起きていたことが、公団の調査で判明 している。正確な情報が上層部に伝わってなかった可能性がある。
B 対策は経済的観点から縮小される。首都高全線で5万ヵ所あり、ほんの一部しか改良されていなかった。予算外の出費を 恐れて対応が遅れた可能性も否定できない。
【総括】
首都高速道路公団は、事故発生の10年以上前からふたの改良を研究し、実際に試験設置を行なうなどして改善を促す報告書 をまとめていたが、首都高全線で5万ヵ所あるふたのうち、7号線については事故発生まで改善措置を講じていなかった。
実際に、1992年には全く事故と同様の状態で人身事故が発生している。にもかかわらず対応ができなかった。
裁判でも指摘しているが、適正な道路管理を怠ったことが事故の原因であることは、間違いないが何故このような当たり前 のことがなされなかったという部分に踏み込む必要がある。

以上