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〜大月駅で特急と回送電車が衝突(1997)〜


【事例発生日時】1997年10月12日

【事例発生場所】山梨県JR中央線大月駅構内

【事例概要】
新宿発松本行き特急「スーパーあずさ13号」が予定より2分遅れて、97km/hで大月駅を通過中、引き込み線から本線に入線してきた回送電車の前部が、あずさの8両目までの左側面に衝突した。
回送電車の運転士が、入れ替え作業用信号が停止を示していたのを見落とし、「スーパーあずさ13号」に示された下り本線用信号の青を出発の合図と誤認した上、ATS(SN型)の電源スイッチを無意識に近い状態で切ってしまったことが原因であった。
あずさは先頭から4〜8両目までの5両が脱線し、5両目の左側面は衝突でえぐれ、車輪が台車ごと外れて横転。回送列車も先頭2両が脱線した。この事故で62名の重軽傷者が出た。

【事象】
新宿発松本行き特急「スーパーあずさ13号」が予定より2分遅れて、97km/hで大月駅を通過中、引き込み線から本線に入線してきた回送電車の前部が、あずさの8両目までの左側面に衝突した。
あずさは先頭から4〜8両目までの5両が脱線し、5両目の左側面は衝突でえぐれ、車輪が台車ごと外れて横転。回送列車も先頭2両が脱線した。この事故で62名の重軽傷者が出た。

【経過】
18:09、「中央特快」(10両編成)が東京駅を出発。この列車は、JR中央線大月駅中線に到着してから前6両を回送列車とし、後4両を河口湖行きとすることになっており、河口湖行きの後4両が富士急行線に抜けるまで、前6両の回送列車は下り本線に一旦待避してから中線に戻る予定だった。しかし、運転士(24)はこの入れ替え作業を一人でするのは初めてで、手順が分からず不安を感じていた(推定)。
19:55、「中央特快」は定刻に大月駅中線に到着。同運転士はすぐに前6両と後4両に 列車を切り離した。
20:02頃、同運転士は回送列車を予定より6分早く出発させ、乗務表を見直したが、具体的な 記載はなかったため、混乱状態に陥って入れ替え作業用信号が停止を示していたのを見落とし、「スーパーあずさ13号」 に示された下り本線用信号の青を出発の合図と誤認した上、ATS(SN型)の電源スイッチを無意識に近い状態で切って、 待避線から下り本線へ24km/hで進入。
運転士の「乗務行路表」には、自分が運転する列車の運行計画や大月駅で何時 に入れ換え作業を始めるのかは示してあったが、入れ替え作業方法についての具体的な記載はなかった。また、他の列車 の通過時刻は掲載されていなかった。
一方、中央線の東京ー甲府間には、列車運行を管理するATOS(東京圏輸送管理 システム)が1996年12月に導入されていたが、ATOSでは、入れ換え作業のダイヤは管理していない。入れ換え作業には基 本的に、ATS等で止まらないように、自由に入れ換え作業ができるという運用方針があり、その判断は運転士に委ねられて いる。 新宿発松本行き特急「スーパーあずさ13号」が予定より2分遅れて、97km/hで大月駅を通過中、引き込み線から本線に入線 してきた回送電車の前部が、あずさの8両目までの左側面に衝突した。 あずさは先頭から4〜8両目までの5両が脱線し、5両目の左側面は衝突でえぐれ、車輪が台車ごと外れて横転。回送列車も先頭2両が脱線した。この事故で62名の重軽傷者が出た。

【原因】
@下り車線の青信号と、回送電車に示された赤信号を見間違えて発車してしまった。
A運転士の「乗務行路表」には、自分が運転する列車の運行計画や大月駅で何時に入れ換え作業を始めるのかは示して あったが、入れ替え作業方法についての具体的な記載はなかった。そのため、混乱状態に陥ってしまった(信号見間違え の要因)。
BATS(SN型)の電源スイッチを無意識に近い状態で切ってしまった。
C入れ換え作業には基本的に、ATS等で止まらないように、自由に入れ換え作業ができるという運用方針があり、 その判断は運転士に委ねられていた。

【対処】
中央線は事故直後から山梨県内の四方津〜甲斐大和間が不通のままで、バスによる代行輸送をおこなった。 また、JR東日本は本社と東京地域本社に事故対策本部を設置、運輸省も関東運輸局職員2人を派遣した。山梨県 警も対策本部を設置し、13日朝から警察庁科学警察研究所と業務上過失傷害容疑で、実況見分、全ATS点検などの 本格的な事故原因調査に乗り出した。
当初ATS解除はATS装置の故障と考えられたが、回送列車の運転台に設置されている速度などの記録装置「ブラックボックス」を鑑定した結果、ATSは解除されていたと断定した。

【対策】
JR東日本は、運転台のついた約3600両について、運転士が運転時に欠かせないブレーキハンドルを抜かない限り、 ATSのスイッチが切れないようにした(1999年3月に完了)。
駅構内での入れ替えなど、スイッチを切って行う作業も残っている。同社は運転士がATSを気にせず運転できるよう、 約90駅であった同様の作業を見直し、大月、甲府など計約80駅では廃止した。事故翌月から、若手運転士を対象にした 特別研修を全社規模で実施した。

【背景】
運転士に関しては、国鉄の分割・民営化をはさみ90年度までの約10年間、高卒採用がなかったため、30〜34歳の 運転士はほとんどいなかった。さらに、10年後に定年を迎える50歳以上の運転手の後継者も、91年度以降に採用者 で埋めていく必要があった。
JR東日本の調査によると、運転士が信号機を見誤ったために事故にはならなかったものの、列車が停止信号を行き過 ぎるなど危ないケースが1995年4月から1997年9月までに計69件に上っていた。約7割が本事故のような駅構内や車両 基地での入れ替え作業中に起きていたが、有効な対策は取られていなかった。
【知識化】
@慣れない作業は予想外の行動(注意力の散漫など)につながる(信号の見落としなど)。
A刑事責任の追及だけでは、再発防止は困難である。
B事故の兆候が多くあっても、事故が起こらないと対策は取られない。
【総括】
甲府地裁の判決では「作業内容を熟知しないまま、漫然と業務に従事したのは、極めて軽率で運転士としての自覚 に欠けると言わざるを得ない」「信号を見誤ったうえ、ATSのスイッチを切るという、運転士として最も初歩的、基 本的な注意を怠った」と運転士の責任を断罪したが、乗務表に入れ替え作業の手順が記載されていないマニュアルの 不備、人的削減、信号誤認による同種事故の教訓が生かされていないなどJR側の安全管理体制の不備が事故の背景 にあったと思われる。
運転士が信号機を見誤ったために事故にはならなかったものの、列車が停止信号を行き過ぎるなど危ないケースが1995年4月から1997年9月までに計69件に上っていた。約7割が本事故のような駅構内や車両基地での入れ替え作業中に起きていた(JR東日本の調査)。

以上