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  失敗百選
〜パトリオットミサイルの防御失敗〜

【動機】
湾岸戦争中、イラク軍のスカッド・ミサイル(Scud missile)の迎撃のため、アメリカ軍のパトリオット ・ミサイル(Patriot Missile)が発射されが、その内部コンピュータのわずかな誤差からスカッド・ミサイル を捕らえることができず迎撃は失敗した。本事例は、小さな誤差も重なることによって大惨事につながる可能性 があるということを裏付けた事例である。
【事例発生日付】1991年2月25日

【事例発生地】サウジアラビア、Dharan

【発生場所】パトリオット・ミサイル・ランチャー(Launcher)

【死者数】28名

【負傷者数】約100名

【物的被害】パトリオット・ミサイル1機
全長約530 cm
弾体直径約40 cm
重量 914kg
フィン数(尾翼) 4
炸薬重量: 90kg
誘導方式 track-via-missile (TVM)
推進力 TX-486固体燃料ロケット・モーター
最高速度 マッハ5
射程 約3kmから70 km
射高 約60mから24 km
最長飛行時間 約3分30秒
【事象】
湾岸戦争中の1991年2月25日、イラク軍よりアメリカ軍に向け発射されたスカッド弾道ミサイルの迎撃のため、 アメリカ軍のパトリオット・ミサイルがサウジアラビアDharanのLauncherより発射されが、同ミサイルはスカ ッド弾道ミサイルを捕らえることができず迎撃は失敗に終わった。その失敗により、スカッド・ミサイルはアメ リカ軍の兵舎を直撃、その兵舎にいたアメリカ軍兵士28名が死亡し、100名近くが負傷した。スカッド弾道ミサ イルとは短距離弾道ミサイルである。

(図:パトリオット・ミサイル(PAC1)の詳述)

詳しい【経過】はこちらから

【原因】
湾岸戦争におけるアメリカ軍のOperation Desert Storm(砂漠の嵐作戦)の中でパトリオット・ミサイルはイラク軍の短距 離弾道ミサイルであるスカッド弾道ミサイルを迎撃することを目的として配置されたが、パトリオット・ミサイル・ システムがスカッド弾道ミサイルの迎撃に失敗したため、同ミサイルはアメリカ軍兵舎に命中する結果となった。 その失敗した主な原因としては、同システム内部のWeapons Control Computerのソフトウェアに 問題があったとされ、それは、同システム内のWeapons Control Computerは1970年代に開発されたもので、現在のハイテク兵器の性能を支えるための高精度な追跡計算処理を行うものとしては限界があったとされている。

パトリオット・ミサイル・システムがスカッド弾道ミサイルのRange Gate空域を推測する過程においては、Phased Array Raderがスカッド弾道ミサイルを捕捉した時刻と、その時点でのスカッド弾道ミサイルの飛行速度が重要な鍵となる。Range Gate空域はその情報を基にWeapons Control Computerによって割り出されるが、その際、同ミサイルの飛行速度は整数と少数で表出される、つまり、 時速123.45kmという表し方である。捕捉時刻は同システムの内部時計において1/10秒刻みで計測されていたが、その計測値に1/10を掛け合わせることによって、整数に変換していた、つまり1秒、2秒、3秒・・・という表し方である。捕捉時刻においての変換過程ではWeapons Control Computer において24ビットでの変換が行われていた。

1/10は1/24+1/25+1/28+1/29+1/212+1/213+…と表すとことができる。そして、それを二進符号で表すと、 0.0001100110011001100110011001100…になる。しかし、24ビットの変換能力しかないWeapons Control Computerで1/10を二進符号で表すと、0.00011001100110011001100となり、小数点以下23桁までの値しか 読まれないことになる。したがって小数点以下23桁以上の0.0000000000000000000000011001100…という 値は計算に含まれず、エラーの対象となる。この0.0000000000000000000000011001100…という二進符号 を少数で表すと0.000000095になり、つまり、この値が同変換過程において1/10秒間に生ずる誤差になる。 そして、1秒間で生ずる誤差を計算すると0.00000095秒になる。スカッド弾道ミサイルの迎撃に失敗した当 時、パトリオット・ミサイル・システムは使用時間が100時間に達していた。100時間を秒に換算すると360,000秒 になり、それに1秒間に生ずる誤差の0.00000095秒を掛け合わせると0.34秒となる。そして、この値が24ビット Weapons Control Computerを100時間使用した際に発生する誤差になる。スカッド弾道ミサイルは1秒間に1,676m飛行 するため、0.34秒の誤差では約570mの距離的な誤差が生じる計算になる。つまり、同システムにおいて、使用時間が 長期化すればするほど、その追跡計算処理の精度が低下してしまい、それは、スカッド弾道ミサイルのRange Gate空域の割り出し計算に大きな影響を与えた。そして、実際にスカッド弾道ミサイルが通過した空域と計算によって割り出されたRange Gate空域では大きな誤差が生じる結果となった。

【背景】
パトリオット・ミサイルは湾岸戦争で、イラク軍のスカッド弾道ミサイルを迎撃することで有名になったが、 同ミサイルは近接信管による炸裂で破片をばら撒いて目標物を撃破する構造だったため、たとえ弾道ミサイル の一部に被害を与えることができても、完全に弾頭を破壊することは少なく。実際、湾岸戦争においてイラク 軍の発射したスカッド・ミサイルを1/4程度しか迎撃できなかったといわれている。
【対策】
パトリオット・ミサイル・システムは、常に進化する弾道ミサイルや巡航ミサイル等に対応するため、ハード・ソ フト両面から改良を続けている。それは、PAC(Patriot Advanced Capability)と呼ばれ、主に3段階に分かれている。 湾岸戦争の際に使用されたものはPAC1型であった。
PAC1型からPAC2型への改良の内容はレーダー装置のソフトウェア改良とミサイルの弾頭・近接信管等で外観の大きな違 いはなかったが、PAC3ではレーダー装置、通信能力の改良と、ミサイル本体も新規開発された。PAC3ミサイルの特長は、 PAC1型とPAC2型に搭載されていたTrack Via Missile誘導システムから更に高性能化した、ミリ波レーダーによる 誘導システムで弾道ミサイルを捕捉し、マッハ5の飛翔速度で真正面から直撃して、その運動エネルギーによって、目標物 を完全に破壊できることである。
【知識化】
パトリオット・ミサイル・システム内部の24ビット・コンピュータ変換過程で二進符号23桁以下が切捨てられたことによって生じた誤差、それは1秒間に0.00000095秒というわずかな誤差だった。しかし、そのわずかな誤差は、同システムの100時間に達する使用時間により0.34秒まで拡大され、その計算処理に大きな影響を与えてしまう結果となった。そして、その誤差が原因となり、パトリオット・ミサイルでの迎撃は失敗したが、同システムは頻繁に再起動させることで、そのシステム内の時計がリセットされ、その蓄積されてきた時間の誤差は最小限に抑えることができた。この事例では、いかなる小さな誤差でも重なることによって大事故につながる可能性があるということを指している。
【情報源】
  • http://www.ima.umn.edu/~arnold/disasters/patriot.html
  • http://www.army-technology.com/projects/patriot/
  • http://www.army-technology.com/projects/patriot/specs.html
  • http://combat1.hp.infoseek.co.jp/PATRIOT.htm