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  失敗百選〜ディーゼル列車が取手駅ビルに衝突〜

【日時】1992年6月2日

【事例発生場所】茨城県 関東鉄道常総線取手駅

【事例概要】
ディーゼル列車がブレーキ故障で暴走,ビルに突っ込む。乗客1人が死亡、250人以上が重軽傷を負った。

【事象】
関東鉄道常総線で、ディーゼル列車(4両編成、乗客約900人)が、西取手駅を出発後、次の取手駅手前の下り勾配で、 運転士は、減速しようとしたがブレーキがかからず、車掌も車掌弁を引下げたがブレーキはかからなかった。 取手駅で、車止めを乗り越えて、駅ビルの2階の壁を突破り、先頭車両の4分の3をファッション店に突っ込んで止まった。 乗客1人が死亡、250人以上が重軽傷を負った。
【経過】
7:56、列車は取手駅の一つ手前の西取手駅に到着した。
7:57、定刻になったので発車しようとしたが、ブレーキがかかったままの状態に なったため、運転士(26)が、応急措置として、列車下部の保安ブレーキ締切栓(コック)を閉じてブレーキを解除した。 しかし、線路が上り勾配で、列車が後退し始めたため、車掌(49)が、車掌弁を引下げて非常用ブレーキを作動させ停止させた。
8:10頃、運転士は、緩め弁(常用ブレーキ)を開けてブレーキを解除し発進した。 次の取手駅約300m手前の下り勾配で、運転士は減速しようとしたがブレーキがかからず、車掌も車掌弁を引下げたがブレーキ はかからなかった。
8:13頃、取手駅で、車止め(高さ1.2m)を乗り越えて、駅ビル(6階建て)の2階の壁 (厚さ12.5p、発泡コンクリート)を突破り、先頭車両の4分の3(約15m)をファッション店に突っ込んで止まった。
【原因】
1.直接原因
運転士は、列車下部の保安ブレーキ締切栓を元に戻さなかったため、緩め弁(常用ブレーキ)のブレーキが効かなかった。一方、車掌も非常用ブレーキの車掌弁を元に戻していなかった。車掌弁は、元に戻さないと弁のパイプの一端から空気が漏れる構造であったため、圧縮空気がタンクに溜まらず、ブレーキが利かない状態となってしまった。

2.人為的原因
  ・運転士は、関東鉄道が「鉄道運転士作業基準」で定めた車両故障後継続運転時のブレーキ制動試験(圧力計の確認など)を怠った。‥‥ルール・マニュアルの無視
  ・ラッシュ時で、約13分間停止して遅れたため、運行を優先した。‥‥心理的圧迫
  ・運転士、車掌とも非常ブレーキの原点復帰を実行せず。‥‥安全に対する意識欠如
【対処】
6月2日、茨城県警が捜査本部(150人)、関東鉄道は社内に副社長を本部長に事故対策本部、関東運輸局も事故対策本部を設置した。 運輸省は事故原因調査のため、係官7人を現地に派遣した。
また、関東鉄道に対する特別保安監査を実施することにきめた(6月8,9日)。車両や施設に異常、故障が起きたときの対応マニュアルが完全だったかなどの立ち入り検査をする。
【背景】
取手駅でJR常磐線と接続する常総線の沿線には、相次いで大手開発会社がニュータウンを造成。東京都内に1時間半程度で通勤できる新興住宅地として人口が急増していた。
今回の事故は、通勤ラッシュ時だったことから、無理をして運転を継続したくなる乗務員の心理状況も生まれる。また、安全輸送確保の基本システムであるATS(列車自動停止装置)もなく(工事中であった。ただしATSで今回の事故が防げていたかは不明)また、列車のブレーキには、通常の「常用ブレーキ」と予備の「保安ブレーキ」の二系統がある。本来二重の安全装置なのに、運転士は修理のため保安ブレーキを不作動の状態に変えていた。すなわち「保安ブレーキ」の機能を失った状態で走行していたことになる。
今回と同じブレーキ固着が過去に幾度かあったとの情報もあり、今回以外にも保安ブレーキなしの運行がなされた疑いもある。今回の事故はこの潜在的な状況で発生したといえる。
【対策】
9.1運輸省関東通産局は、監査結果をもとに今後の安全体制の確立や再発防止のための注意事項を文書で指示した。指示は、以下の項目など(6月10日)。
  ・異常時の連絡体制や実施訓練の充実
  ・乗務員に対する教育訓練の徹底
  ・車両の管理に万全を期す

9.2関東鉄道、年2回の社内訓練の実施
9.3関東鉄道、常総線水海道駅で脱線事故を想定した事故訓練を実施(175人参加)、1997年
【知識化】
マニュアルがあったとしても、実際にマニュアル通りに行動するかどうかは疑問である。
異常事態の際での、取るべき作業手順を明確に示すことはもちろん、なぜその作業が必要かを理解させるとともに、 実際に的確な行動がとられるかどうか確認しておくことが大切である。なお、今回のように複数の人間による対応は、 その連絡徹底も不可欠である。
【総括】
水戸地裁では、運転士と車掌の「個人のミス」として裁判が進行し、判決は両被告の注意義務違反が事故を引き起こしたと判断、会社側が基本的な手順や操作の知識を十分に教えないまま乗務させていたことについても「管理・教育のあり方にもかなりの問題があった」と会社側の責任も指摘した。しかし「個人のミス」がなぜ起きるのかを徹底的に分析し対応しないと、本事例のような事故は防止できない。

以上